明月


惜別


そのあたり、夜の情景はといえば、
旧びたスレート屋根の低い軒先に取り込み忘れた洗濯物、狭いでこぼこの舗道に停め置かれた大発製ボロの軽トラ、シロや黄色の街燈にたかる数々の透明の虫や蛾や虻、電柱でコマ結びになった乱雑な電線、そしてよじれた赤い幟の下では今や小さな韓式中華屋のデカ尻の大女房が道に汚水を打って投げやりな晩の店仕舞い、振り向けば乳もデカい。

そして時折りこの夜の通りを行き過ぎるものはといえば、もはや客を積んでいない深夜の市内バス、駅前の予備校帰りの再修女子学生自転車数名、誰が食うのかピザや冷麺や辛い鶏肉料理やその他夜食の出前オートバイ連中などのみ。

この程度の夜ではまるで旅情もクソもない。そんな俺はといえばほんの数分前までその街のとある雑居ビル地下にあるその名も「ウエノ」という小汚くも湿っぽいビアバーで冷えすぎて凍えそな瓶ビール勢い良く数本をきこしめし、ついでに硬くて噛み切るのもヤヤつらいジャーマンソーセージ焼きスペシャルセット・カクトゥギ付きなども腹におさめ、旅に少々ウンザリしかけていた。おまけに「ウエノ」のBGMときたら往年のニッポンフォークソング。中島みゆきや小田かずまさ、長渕とチャゲとアスカ、こめこめなど。

山地谷


熊苺


ノレホール


chachacha


花亭


花蝶、川瀬、銀河水


愛林、ハニー


成春香

ああ松山千春の「長い夜」、したたかに酔い、今宵もカラオケで松山歌う上野の山の自宅の父よ、お元気ですか。ぼくも元気です。そして朝鮮半島の夜は長いです。飲みすぎないで、お父さん。ぼく今宵、あなたのことがとても心配なのです。そういえばお父さん今日はあなたの誕生日でしたね。いままでいろいろ迷惑かけました。昔、お父さんのカネたくさんくすねました。そのカネで風俗行きました。それから黙って学校やめました。親不孝本当すみません…。ぼく心から今そう思います。

そうして気づくとなぜか、低層で築30年は経過していると思しきその旧い団地の階段を、㋕の棟、㋤の棟、㋟の棟の順番で、忙しなく昇ったり降りたりしながら彼方遠方近方見下ろしたり見回したりもしてる俺。異国からやってきたノホホン観光者にしては相当怪しい行動をさっきから繰り返しているようすだ。うっかり暇な夜回りの地区隊に職質でもされようものなら弁解に難儀することこのうえないシチュエーション。いざとなったらチショウのふりをしようと固く心に決める。

bangmi
나를 보러와요 - 방미 1980


ま、初めての街に於いて夜の異形の界隈をみつけだし、それを自らの手中におさめんとするにはなにより高い場所からの眺めを眺めることが最適でなんである。だがこれ、眺めを眺めるというよりは、俺の場合匂いをクンクン匂うという言い方が何より相応しい。なぜなら、淫な空気や、エロな水、というやつは、あたりに遠慮会釈のひとつなく厚かましくもクサい臭いを撒き散らして堂々開き直るもの、

と東アジアではおおむね相場がきまっているから。

菊香


梨花


川瀬


甘い花


親切な錦子さん、桃花


銀河水


淑香、銀花、楊貴妃


室内幌馬車 夜汽車

するとやにわに北向きの廊下の側からけたたましい夫婦喧嘩の声や子どもが騒いで泣いている声などが聞こえくる。おや韓国語で罵り合い、韓国語で泣き喚いていますね、ここの人らはこの夜に。

お、ここ、やっぱ異国なんだな。

ここで俺、しみじみと旅情。おおよそ西方500mのあたり、夜の京釜線線路の方角から物憂く駆ける貨物列車の鉄の軋む音などもなんだかそわそわリリックに聞こえてきたりして…

俺、ここで、さらに、いわゆる旅情。
なんだか寂しくもなってきた。

そういえばはじめて見た韓国の映画は「박하사탕」という題名だったな。内容おおむね忘れたがいまもなんとなく憶えているよ。なんだか寂しい内容だったな。ある若い刑事が地方に捜査にやって来て夜を徹して幾晩も張り込みするんだが、全然犯人現れず、そのうちなんだか飽きてしまってやる気失せたかどうだかで、途中のイキサツすこし忘れたが、その刑事たら張り込みうっちゃらかして夜中のそのへんの路地を奥のほうへ奥の方へとふらふらさ迷ってゆく。すると途端に情緒っぽく雨も降り出したりなんかして。

で、そうするとあるんだな、やっぱ、そういった夜にふさわしい安酒を売る情の深い女のいる店というものが。なにか唇が薄くて肩先も細い無名な女優。いかにも薄幸そうな。そんで酒を注がせて女となにやら会話もするけど刑事は不器用なやつで一向に話噛み合わないの。そのうちだんだん酔ってもきて話は噛み合わないんだけど気がつくといつしか体で噛み合ってたりするの…。ああ俺は無意識に心のどこかでそういう

チャチャ、有情、国賓、かぼちゃ村…


初喜、山湖

薄幸な娘さんのいる夜の酒舗を探し求めて
韓国へとやって来ているのかもしれないなあ。きわめてのモノ好き。ま、俺は間違いなくその範疇だ。他人にもわりとそう言われるし別段気にもならん。日付が変わる時刻になっても宿すら決まっていないのは再々で、この晩も勿論そうだった。おおむね見当をつけたあたりに目星のモノが見つからないときはなおさらだ。空腹の赤い暴れ犬が赤目をぎらぎらさせ、腐れ肉の赤いひとかけらでも道に落ちてないものかと、赤い鼻先を埃まみれにしながら水浸しの場末を泥だらけでうろうろうろつきまわる。それにきわめて似てる。

こうなったら今宵、俺なるべく古くさくて苔むしてて何だか暗くて怪しくて、おまけに帳場に傴僂の老婆かなんかが眇で陰気に待ち構えているような、まともな人間はまず足を踏み入れそうもなさそうな、そんな超最低級のおんぼろ旅人宿の独房にでもいっそ転がり込んでやろうかしら。そうしよう。枕は整髪料の残り香、布団や毛布もカビ臭く、当然窓は高い場所に一箇所だけ、蛍光灯は黒ずんで、壁の穴には93年頃の色褪せたカレンダー、扉の鍵などとうに壊れてる。先客の陰毛や床の焦げ跡、得体しれずの埃まみれた緑色のビン…

女人天下


王と妃


七公主


張允貞、平澤白亜館中年ナイト


蝶


成春香


独島、は我らの土地


張嬉嬪、七公主


注文津2


チャチャチャ


フルーツ


藝印精版印刷社


黄龍佛


穴蜂

…さらには萌えないコーリアンエロビデオ、時には注射の針なども。
おおムード満点このうえないぞ。そうして缶コーヒーを飲む間もなく徐ろに俺のドアーは叩かれ、ドアーの向こうからは瘡蓋のトカゲ女や、垂れ乳の塩辛婆ァや、二の腕の娘相撲や、全裸で入ってくる義足ロリや、サソリとカラスの下腹部刺青、などが引きも切らず夜伽の押し売りに押し寄せてくるはずなのだ。阿奈おそろしや。断っても断っても次から次にくるはずだ。アナおそろしやい…。ま、そんなこと考えながら団地の階段に独りたたずんで、しばらくずっとニヤニヤしてたら、

俺案の定、警官に呼び止められましたわ、お父さん。
またしても親不孝ですわ、この俺は。










京畿道平澤市

撮影 小森アレキサンドル
May 2012










 

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    7
    • 명동군's comment
    • July 15, 2012 19:06
    • ぴよりん。さんコメントありがとうございます。
      ぜひ探索してください。
      それでおもしろいところがあったらおしえてください。
  1. 6
    • ぴよりん。's comment
    • July 15, 2012 14:13
    • いつも楽しく読ませて頂いております。
      今まで記事を参考に韓国内のお楽しみスポットを探索してきました。龍仁の茶房、安養の怪しげな飲み屋地帯等々。
      平澤の置屋は探索した事があるのですが、まさかこんなド派手な飲み屋マウルがあったとは。。これは探索せずにはいられません。
  2. 5
    • 명동군's comment
    • July 13, 2012 01:09
    • コメントありがとうございます。

      > 相反し、迷走し、思考する。
      > 親不孝と、詩をたどる力は
      > 街を極彩色に彩りながら、時間も紡いでいく。
      > ここにいう『親不孝』は世代をこえて走っていく。

      ペパーミントキャンディーです。
      気になったので、夕方ツタヤでDを借りてきて、該当箇所だけ見直しました。
      そしたら主人公、
      「不器用なやつで一向に話噛み合わない」どころか、
      そうとう狡猾な性格で、口から出まかせばかり吐いて女を騙し、、
      仲間にも無礼モノ扱いされるようなとんでもない男だったことが判明しました。

      俺は自分のなかで映画の筋書きを勝手に作り変えて記憶してたようですね。
      でもこれとてもいい映画だと思います。
      瀕死の初恋の女性が形見にくれたカメラを躊躇いもなく
      平気で売り飛ばしてしまうところとか…。
      主人公、冷酷で好い加減なところが俺にそっくりだなあと、
      思わず顔を覆って泣きたくなります。

      [image]http://livedoor.blogimg.jp/koreastation/imgs/b/3/b39352d7.jpg[/image]
  3. 4
    • へべれけ's comment
    • July 12, 2012 23:09
    • [strong][color=#0CC]Peppermint Candy[/color][/strong]ね。日本で見たわ。
      あの主演男優は[strong][color=#930][u]力道山[/color][/strong]にも出てたわ。ミュージカルの「[strong]地下鉄一号線[/strong]」にもでてたそうよ。今は休演中だそうだけど。
      あの映画、結構悲しい内容だったわね。とっても悪い男が登場するのね。
      それがどうしてそうなったか、現在から過去にさかのぼるという
      映画だったわ。シークエンスごとに列車の最後尾からの映像があって、
      それは巻き戻しになってんのよ。
      명동군がそれを観ていたというのは、ちょっといいわね。

      相反し、迷走し、思考する。
      親不孝と、詩をたどる力は
      街を極彩色に彩りながら、時間も紡いでいく。
      ここにいう『親不孝』は世代をこえて走っていく。
  4. 3
    • 명동군's comment
    • July 12, 2012 00:48
    • ロンさん、国民の性生活第一さん
      コメントどうもありがとうございます。
      褒めてもらえると嬉しいですし、
      ブログ遣り甲斐ありますね。
      ま。写真は好きですが素人の遊び
      文はどんなに一生懸命普通の文を書こうとしても
      こうゆうふうにしか書けないのです。

      ま、我慢してください。
  5. 2
    • 国民の性生活が第一's comment
    • July 11, 2012 23:12
    • いったいどういう旅をしたら、こんな場所にたどりつけるのでしょう。日本人の韓国ブログは数あれど、中でもみょんどん君さんのブログはかつて類例のないほど超猛烈に個性的だと思っています。文学的才能と写真のテーマが凄いのにびっくりです。わたしもあまりヒトの来ない韓国ブログをやっていますが、もうやめたくなりました。あんたには敵わない。
  6. 1
    • ロン's comment
    • July 11, 2012 23:10
    • いつも楽しく読ませていただいております。
      独特の文にいつも惹き込まれます。
      ケバケバしい飲み屋の写真と、気怠い感じの文書。
      とても好きです。
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    All songs arranged & performed by
    Kim,Myung-Gon (1952-2001)



    https://soundcloud.com/koreastationnouveau/sets/kim-myung-gon-sound-vol-1







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